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節税コラム|退職金スキーム徹底比較

退職金スキーム3つを
副業法人目線で徹底比較

小規模企業共済・法人退職金・中退共。出口戦略の三本柱を、掛金・損金・受け取り時の税務まで分解して、副業法人オーナーの「自分はどれを選ぶべきか」が決まる比較記事です。

2026年最新版 | 読了時間 約8分

なぜ「退職金」が副業法人の出口戦略の本丸になるのか?

結論:副業法人オーナーの退職金設計は 「小規模企業共済+役員退職金(法人退職金)」の2本立て が王道です。中退共は従業員のための制度で、役員(自分)は対象外。家族従業員を雇うフェーズになって初めて検討する位置づけになります。

法人成りの節税というと、役員報酬・社宅・家族役員などの「毎年の節税」に注目が集まります。 しかし副業法人の本当の妙味は、「最後にまとまった金額を退職金で受け取る」という出口にあります。

退職金には、ほかの所得には存在しない「退職所得控除」という大きな控除枠と、控除後の金額をさらに半分にしてから累進課税にかける1/2課税というインパクトの大きい優遇があります。 同じ1,000万円を給与として受け取るのか、退職金として受け取るのかで、手取りは数百万円単位で変わってきます。

例え話:役員報酬は「月々のお給料」、退職金は「最後にまとめて受け取るボーナス」。 ボーナスのほうがガッツリ受け取る分、税法は「長く働いた分の対価だから、税金はマイルドにしましょう」と優遇しています。 この優遇枠を計画的に育てるのが、副業法人の出口戦略の核です。

ところが、退職金スキームは1つではありません。 副業法人オーナーが使える主要な制度は3つあり、それぞれ「誰が」「いつ」「どれくらい」払うかという設計が異なります。 それを混同したまま走り出すと、せっかくの優遇枠を取りこぼします。

この記事では、副業法人を作ったサラリーマン・YouTuber・フリーランスが知っておくべき退職金3スキーム──小規模企業共済法人退職金(役員退職慰労金)中退共(中小企業退職金共済)──を、実体験を交えながら比較します。 最後まで読めば、自分の法人でどれを使い、どう組み合わせるべきかの輪郭が掴めるはずです。


退職金スキーム3つの全体像(小規模企業共済・法人退職金・中退共)

まずは3つの制度の立ち位置を一気にざっくり把握しましょう。 細かい違いはこの後のセクションで分解しますが、最初に「誰のための制度なのか」を整理しておくと、以降の説明が頭に入りやすくなります。

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① 小規模企業共済

月1,000〜70,000円

個人事業主や小規模法人の役員のための「自分用退職金」。掛金は全額所得控除になり、共済金は退職所得などとして受け取り。中小機構が運営。

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② 法人退職金(役員退職慰労金)

退職時に一括

退職時に法人から役員へ支給する退職金。社内ルールに基づき、不相当に高額でない範囲で法人の損金にできる。設計の自由度が一番大きい。

👷

③ 中退共

月5,000〜30,000円

中小企業の従業員のための退職金共済。掛金は全額損金算入&国の助成あり。ただし役員は加入できないため、副業オーナー本人ではなく従業員向け。

ここを読み飛ばさないで:3つは「並列の選択肢」ではなく、役割の違う制度です。 ①は「自分のための積立」、②は「退職時にまとめて支給する社内制度」、③は「従業員のための国の制度」。 重なる部分もありますが、副業法人で1人法人なら ①+② が王道、家族や外部の従業員がいるなら ③ も加わる、というのが実務的な使い分けです。

3スキームの基本データ早見表

細かな数値は次セクションから個別に見ていきます。まずはこの表で「自分はどの行を読めばいいか」だけ掴んでください。

比較項目 小規模企業共済 法人退職金 中退共
主な対象 個人事業主/小規模法人の役員 法人の役員 中小企業の従業員
副業法人オーナー本人 ○(要件次第で加入可) ◎(メイン制度) ×(役員は不可)
家族役員 △(業種・規模条件あり) ×(役員は不可)
家族従業員(役員でない) × ○(要件あり)
掛金の上限 月7万円(年84万円) 退職時にまとめて支給 月3万円(年36万円)
掛金の税務上の扱い 全額所得控除(個人) 退職時に法人で損金算入 全額損金算入(法人)
受取時の課税 退職所得 or 雑所得 退職所得 退職所得
運用 中小機構が運用 法人が積立/生命保険など 勤労者退職金共済機構

ここから先は、各制度の中身に踏み込みます。 数値や条件が細かく出てくるので、自分の状況に関係しそうなセクションから拾い読みしてもOKです。


小規模企業共済の仕組みと副業法人での使い方

小規模企業共済は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、個人事業主や小規模企業の経営者・役員のための「自分専用の退職金積立制度」です。 創業1965年の歴史ある制度で、副業法人オーナーが最初に検討すべき出口商品の一つです。

どんな制度?──「自分で積み立てる退職金」

仕組み自体はシンプルです。月1,000円から70,000円までの範囲で掛金を払い込み、廃業や役員退任のタイミングで「共済金」としてまとめて受け取ります。 掛金は500円単位で増減でき、業績に応じて柔軟に変えられます。

たとえ話:銀行の積立預金に「税金の優遇枠」を貼り付けたようなイメージ。 預金との大きな違いは、入金時にも出金時にも、税法上の特別ルートが用意されている点です。

節税ポイント①:掛金は全額「所得控除」

払い込んだ掛金は、その年の所得から「小規模企業共済等掛金控除」として全額差し引けます(所得税法第75条)。 たとえば年間84万円(月7万円×12ヶ月)を満額で積み立てた場合、所得税・住民税の両方で控除が効きます。

副業法人オーナーが個人として加入し、自分の役員報酬から払い込む場合、所得税の限界税率が20%(住民税10%と合わせて30%)の方なら、年間84万円の掛金に対して結果的に年20万〜25万円程度の税が軽くなる傾向になります。 ※ 実際の軽減額は本業給与・副業役員報酬の合計と他の控除によって変わります。限界税率が低い帯では効果も小さくなります。

注意:所得控除はあくまで個人の所得税・住民税に効きます。 法人の経費(損金)にはなりません。「法人で払って法人税を減らしたい」なら、後述する法人退職金や、別の制度(法人保険・iDeCo+ など)の検討になります。

節税ポイント②:受け取り時も「退職所得」扱いで優遇

共済金の受け取り方は、以下のような選択肢があります(受給事由により扱いが変わります)。

多くの副業法人オーナーが選ぶのは「一時金で退職所得にする」ルートです。 退職所得控除(後述)と1/2課税のセットで、受取金額のかなりの部分を非課税ゾーンに押し込めます。

副業サラリーマンは加入できる?できない?

ここがよく勘違いされるポイントです。 小規模企業共済は「給与所得者」としての加入は認められていません。 つまり、本業のサラリーマンの立場では加入できません。

ただし副業で法人成りをして、自分がその法人の役員になっている場合、「小規模企業の役員」という立場で加入できる余地が生まれます。 ポイントは法人の規模が「小規模企業者」に該当するかどうかです(業種ごとの常時使用従業員数で判定)。

副業1人法人なら:従業員数の要件は通常クリアします。 自分が代表社員(合同会社)または取締役(株式会社)であれば、副業法人の役員という立場で加入を申し込めるケースが多いです。 ただし最終的な加入可否は中小機構の窓口判断になるため、申込前に問い合わせるのが安全です。

⚠️ 短期解約は元本割れする

小規模企業共済は、加入から240ヶ月(20年)未満で任意解約すると、解約手当金が払込総額を下回る設計になっています。 また加入から12ヶ月未満で解約すると、解約手当金は0円です。

気をつけたい落とし穴:「節税のために満額の月7万円で始めたけど、副業の調子が落ちて続けられなくなった」というケースは案外あります。 月額は500円単位で減額できますし、年に1回まで掛金の払い込みを止める手続きも可能です。 「最初から満額」より「無理なく続けられる金額」から始めるのが王道です。

私が法人成りしたとき、最初の決算書を税理士に作ってもらった面談で「小規模企業共済はもう申し込みましたか?」と最初に聞かれました。 副業の調子に波があったので月3万円から始め、利益が安定してきた2年目に月5万円、3年目から満額の月7万円に上げる、という積み増し方をしました。

満額にしてから振り返ると、年間84万円を積み立てて、所得控除でその年の税負担が体感で20万円ちょっと軽くなり、しかも将来の自分の退職金になっている──この二重の効果は、個人事業主時代との違いを実感する場面のひとつでした。


法人退職金(役員退職慰労金)の仕組みと損金算入のルール

法人退職金──正式には「役員退職慰労金」と呼ばれることが多い──は、役員が退任するときに法人から支給する退職金です。 副業法人の出口戦略のなかで、設計の自由度がもっとも大きく、節税インパクトも一番大きいのがこの制度です。

法人退職金は「規程+総会決議+議事録」がセット

役員退職金を有効に支給するには、いきなり「振り込みました」では通りません。 会社法・法人税法の両面から、以下の手続きが事実上必須になります。

📜

① 退職慰労金規程を作る

役員に退職金を支給する場合の算定式・支給対象・支給時期を定めた社内ルール。後付けで作るのではなく、退職前に整備しておくのが安全です。

🗳️

② 株主総会で決議する

取締役の報酬・退職慰労金は株主総会の決議事項(会社法361条)。具体額の決定を取締役会または代表取締役に一任する形でも、最低でも上限・算定基準は総会で示し、社内規程として株主が閲覧できる状態にしておくのが原則です(最判昭和39.12.11、退職慰労金の一任決議に関する判例)。

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③ 議事録を残す

株主総会議事録・取締役会議事録(必要に応じて)を作成し、保管。税務調査では真っ先に確認される書類のひとつです。

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④ 退職の事実があること

名目だけの退職(実質は経営に関与し続ける)では退職金として認められないリスクがあります。代表取締役→平取締役のような分掌変更も、実態が伴えば退職とみなされる場合がありますが、ここは個別判断です。

いくらまで損金にできる?──「不相当に高額」の判定

法人税法34条2項は、役員退職給与のうち「不相当に高額な部分」は損金不算入と定めています。 逆に言えば、不相当に高額でない範囲なら全額が損金になります。

では「不相当に高額」をどう判定するか。 法令上の固定値はありません。実務でも判例でも参照されるのは、いわゆる功績倍率法という算定式です。

役員退職金の目安額 =  最終月額報酬  × 役員在任年数  × 功績倍率

功績倍率は法令で定められたものではなく、過去の判例・国税不服審判所の裁決などで「これくらいまでなら不相当に高額とは言いにくい」と参照されてきた数値です。 代表取締役で 3.0 が判例上の上限目安として参照されることが多く、これを超える設計は否認リスクが高まると言われます。専務2.4、常務2.2、平取締役1.8前後が判例の目安として挙げられることが多いですが、いずれも法令上の閾値ではなく総合判断の参考値です。

断定しないでください:「功績倍率3.0なら絶対に大丈夫」とは言えません。 会社の業種・規模・利益水準・他の役員とのバランス・退職の経緯など、総合的な判断になります。 実務では税理士と相談しながら、業界の同規模法人と整合する水準で組み立てます。

数値例で見る「いくらまで損金にできるか」

たとえば、副業法人で次のような条件を想定します。

役員退職金の目安額 =  50万円 × 20年 × 2.5  = 2,500万円

この金額が、税務上「不相当に高額」と言われにくい目安水準です。 法人側はこの2,500万円を退職した期に一括で損金算入できるため、その期に十分な利益があれば、所得圧縮分に対して法人実効税率(副業法人の所得帯ならおおむね22〜34%)相当の法人税が軽くなります。 仮に当該期の所得が退職金額を下回ると欠損金として翌期以降10年繰り越す扱い(法人税法57条)になるため、即時のキャッシュ効果は限定的になる点に注意してください。

ポイント:この「最後の年に大きな損金が立つ」という性質が、法人退職金の最大の魅力です。 毎年コツコツ削るのではなく、出口で一気に法人税の優遇枠を使い切るイメージ。 役員報酬を低めに抑えて法人内部に利益を貯めておけば、その分を退職金で外に出すときに節税できます。

原資の準備方法:内部留保/生命保険/共済

法人退職金は支給する瞬間に2,000万円・3,000万円が降ってくるわけではありません。 在任中に何らかの方法で原資を準備しておく必要があります。代表的な方法は次の通りです。

🏦

① 法人内部留保(現預金で貯める)

もっともシンプル。利益から法人税を払ったうえで残った現金を法人口座に積み上げる方法。掛金の所得控除のような毎年の節税はないが、自由度は最大。

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② 法人生命保険(一部商品)

解約返戻金を退職金原資に充てる手法。ただし2019年の通達改正で全額損金タイプは大幅に制限されており、現在は損金算入割合が抑えられた商品が中心。設計には専門家の助けが要る領域。

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③ 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)

本来は取引先倒産対策の制度ですが、解約手当金が退職金原資に近い性質を持つため、出口設計として併用されるケースがあります。詳細はセーフティ共済の節税記事を参照。


中退共は副業法人で使えるのか?

中退共(中小企業退職金共済)は、勤労者退職金共済機構が運営する国の制度で、中小企業が従業員のために退職金を準備する仕組みです。 副業法人オーナーが意外と知らないのが、「中退共は役員のためには使えない」という点です。

中退共のキホン:従業員のための制度

事業主が金融機関等に掛金を毎月払い込み、退職時に従業員へ直接退職金が支払われる仕組みです。 事業主から見ると、掛金が全額損金算入できる、退職金事務を機構が代行してくれる、国からの掛金助成があるなどのメリットがあります。

役員は対象外──ここを必ず押さえる

中退共の加入対象は従業員に限られ、役員(取締役・監査役・代表社員など)は加入できません。 副業法人で自分が代表になっている場合、自分のために中退共は使えない、ということになります。

例外的な扱い:「使用人兼務役員」として認められる場合(たとえば部長兼取締役で実態が従業員寄り)、中退共加入が認められるケースがあります。 ただし副業1人法人で自分が代表取締役のケースでは、法人税法施行令71条1項1号により代表者は使用人兼務役員に該当しません(代表取締役・代表執行役・副社長・専務・常務などは法令上対象外)。

副業法人で中退共を活かすなら「家族従業員」

役員ではない家族(たとえば配偶者を従業員として雇用する場合)であれば、中退共の加入対象になりえます。 ただし事業主と生計を一にする親族(同居親族)は、原則として被共済者になれません(中小企業退職金共済法2条3項、機構運用基準)。配偶者でも生計を一にしているなら対象外、という運用なので、加入可否は機構窓口で個別確認が必要です。

ざっくり言えば、中退共は「副業1人法人の本人用」ではなく「拡大して従業員を雇うフェーズで検討する制度」と位置づけるのが実態に合っています。 副業法人成り直後の段階では、まず①小規模企業共済と②法人退職金の組み合わせを優先して設計するのが現実的です。


受け取り時の税金:退職所得控除と1/2課税の効果

ここまで「掛けるとき」の話をしてきましたが、退職金スキームの本当の威力は「受け取るとき」に現れます。 退職所得には、ほかの所得には存在しない強烈な優遇が二段重ねで効いてきます。

退職所得控除──勤続年数で増える非課税枠

退職金(退職所得)には、勤続年数に応じた非課税枠(退職所得控除)があります。 所得税法30条3項の規定に従って計算します。

退職所得控除額(所得税法30条3項) 【勤続20年以下】  40万円 × 勤続年数(最低80万円) 【勤続20年超】  800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)

※ 勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。

勤続年数 退職所得控除額 控除のイメージ
5年200万円200万円までは非課税
10年400万円400万円までは非課税
15年600万円600万円までは非課税
20年800万円800万円までは非課税
25年1,150万円1,150万円までは非課税
30年1,500万円1,500万円までは非課税
35年1,850万円1,850万円までは非課税

控除後の金額をさらに半分にしてから課税──1/2課税

退職所得控除を引いた後の金額は、さらに1/2を乗じてから所得税の累進税率を適用します(所得税法30条2項)。 つまり、退職金1,000万円・退職所得控除800万円のケースなら、課税対象になるのは(1,000万円−800万円)×1/2=100万円だけです。

たとえ話:退職所得は「セールの上にさらにセール」が乗っているイメージ。 まず控除で値引きし、残った部分も半額にしてからレジに通す──そんな優遇構造になっています。 同じ金額を給与で受け取ると累進税率がフルに効きますが、退職金ならこの二段優遇が効きます。

⚠️ 「特定役員退職手当等」の落とし穴

役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)は、1/2課税の対象外になります(所得税法30条4項)。 短期で引退・退任して退職金を受け取る設計は、この点で税負担が大きくなります。

副業法人での意味:「3〜4年で法人を畳んで退職金を取り切る」という超短期スキームは、1/2課税の対象外になるため節税効果が大きく落ちます。 副業法人の出口戦略は、最低でも10年単位で構えるのが王道です。 なお令和4年改正で、役員等以外の方でも勤続5年以下の退職金は退職所得控除超過分のうち300万円超部分が1/2課税対象外(短期退職手当等)になりました。家族従業員の中退共設計時は留意してください。

給与で取るのと退職金で取るので、いくら変わるのか?

たとえば「2,000万円を一括で取る」場合の比較を、ざっくり試算してみます(実際は本業給与・副業役員報酬・他の所得控除で変動します。試算は単独・概算)。

📊 比較:2,000万円を給与 vs 退職金で受け取る(勤続20年)

給与で受け取る場合の所得税+住民税(概算) 約500〜600万円
退職金で受け取る場合の所得税+住民税(概算) 約100〜150万円
税負担の差(概算) 約400〜500万円

※ 課税所得2,000万円相当・他の所得控除なし・社会保険料は別計算とした概算。給与受取の場合は別途、社会保険料(年間百万円単位)が法人・個人双方で発生します。実際の数値は本業給与・他の控除との合算で変動します。

給与は超過累進税率がフルにかかるうえに社会保険料の対象にもなるのに対し、退職金は退職所得控除+1/2課税で課税対象が縮小し、社会保険料の対象にもなりません。 この差が、退職金スキームのインパクトが最も大きいと言われる所以です。

注意:上記はあくまで概算で、実際には他の所得控除や住宅ローン控除、本業給与の有無で結果は変わります。 具体的な金額は、税理士と一緒にあなたのケースで試算してもらうのが確実です。

3スキーム併用シミュレーション:30年で動く金額

ここまでの内容を、「副業で法人成りして30年運営した1人法人オーナー」を想定して、3スキームを併用したらどう動くかを試算してみます。 数字はざっくりした目安で、実効税率や運用利回りで結果は変わります。

前提条件

📊 ① 小規模企業共済の30年積立効果

掛金総額 月7万円 × 360ヶ月 = 2,520万円
所得控除による節税効果(年間掛金84万円×限界税率30%) 約25万円/年 × 30年 = 約750万円
受取共済金(試算上の目安、利回り条件次第) およそ2,800万円前後
30年積立の節税+受取の合計効果(概算) 節税750万円+共済金2,800万円

共済金を一時金で受け取る場合、掛金納付期間(30年)に応じた退職所得控除1,500万円が使えます。 ただし下記②の法人退職金と同一年または近接年に受け取る場合は、所得税法施行令70条1項2号・所得税基本通達30-10にもとづき退職所得控除の重複調整(勤続期間の重複部分は控除を按分)が入るため、控除額は単独計算より圧縮されます。両者を異なる年に分けて受給する設計が王道です。

📊 ② 法人退職金の節税効果(在任30年・功績倍率2.5)

退職金の目安額 60万円 × 30年 × 2.5 = 5,400万円
法人税の損金算入による節税(所得帯による実効税率の幅) 5,400万円 × 22〜34% = 約1,200万〜1,800万円
受取側の課税対象(退職所得控除1,500万円・1/2課税) (5,400万円 − 1,500万円)× 1/2 = 1,950万円
個人の所得税+住民税(累進・概算) およそ650〜700万円
法人退職金スキームの節税効果(幅・概算) 法人税およそ1,200万〜1,800万円軽減

※ 試算上の数値は単独計算で、共済金との同時受取に伴う退職所得控除の重複調整、他の所得との合算、各種控除は反映していません。 また当該期の法人所得が退職金額を下回ると欠損金繰越(法人税法57条)に転化するため、即時のキャッシュ効果は限定的になります。自分のケースに当てはめる場合は、必ず税理士のシミュレーションを通してください。

ざっくり総括:30年フルに使うと、小規模企業共済と法人退職金の合計で軽減される税額が累計1,500万〜2,000万円超のレンジになります(重複調整考慮前の単独計算)。 副業法人を始める年齢が早く、続ける期間が長いほど、退職金スキームのインパクトは雪だるま式に大きくなります。

出口戦略の設計は早いほど得

退職金スキームは、税理士と「最初に」設計するのが一番効く

小規模企業共済の加入時期、役員報酬と功績倍率の整合、家族従業員の中退共── どれも「設立後すぐ」に決めておくほど、30年で動く金額が変わってきます。 副業法人専門の税理士に一度相談してみるのが、出口戦略の最短ルートです。

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小規模企業共済の加入要件 功績倍率の妥当性 退職慰労金規程の整備 中退共の家族従業員加入

よくある落とし穴と税務調査で指摘されやすい点

退職金スキームは節税効果が大きい分、税務調査でも重点的にチェックされる領域です。 副業法人オーナーが踏みやすい落とし穴を、実務で指摘されやすい順に並べます。

落とし穴①:退職慰労金規程・議事録の不備

実務で一番多い指摘がこれです。 退職慰労金規程が後付けで作られている、株主総会議事録が支給日より後の日付になっている、議事録に算定基準や金額の記載がない── こうした書類不備は、退職金そのものを否認する根拠になりえます。

対策:会社設立後、できれば最初の決算までに退職慰労金規程のひな型を整備しておく。 支給時には事前に株主総会で決議し、議事録を当日付で作成・保管。形式的な手続きでも、ここを省略すると数千万円の損金が吹き飛びます。

落とし穴②:「不相当に高額」の判定で否認

功績倍率法で算定したつもりでも、最終月額報酬がたまたま支給直前に大きく引き上げられていたり、業績に見合わない高倍率を使っていたりすると、「不相当に高額な部分」として一部が損金不算入になります(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。

たとえば最終月額報酬を退職前年度に2倍に引き上げて、その金額×在任年数×功績倍率3.0で計算するような設計は、税務調査で否認リスクが高まります。 最終月額は退職前数年間の平均的な水準を参考にするのが安全です。

落とし穴③:「退職の事実」がない(実質的な退職と認められない)

代表取締役を辞任して平取締役に分掌変更したが、実態としては経営判断を続けていた──このような「形だけの退職」は、税務上の退職と認められず、支給した退職金が役員給与(しかも臨時のもの)として扱われ、損金不算入になる可能性があります。

分掌変更でも認められやすい条件

① 報酬が概ね半分以下に減少 ② 主要な業務執行から実質的に外れる ③ 後継者が実権を持つ──など、実態として「退いた」と言える状況であること。書面だけでなく実態が問われます。

落とし穴④:源泉徴収・退職所得申告書の漏れ

退職金を支給するときは、退職金の額・勤続年数等を踏まえた源泉徴収が必要です。 また受取側は「退職所得の受給に関する申告書」を支給日前日までに提出することで、退職所得控除が源泉徴収段階で適用されます。 これを忘れると、いったん高い源泉税率で源泉徴収されるか、確定申告で精算する手間が発生します。

落とし穴⑤:小規模企業共済の240ヶ月縛り

前述のとおり、240ヶ月(20年)未満の任意解約では元本割れします。 副業の業績悪化で長期積立が難しいときは、解約より掛金減額(最低月1,000円)や一時的な払込停止で凌ぐのが鉄則です。

共通する注意:「節税の話」と「退職時の手続き」がいずれも書類重視です。 税務署は「議事録」「規程」「申告書」のような書面を見て、その背景にある実態を判断します。 こまめに書類を整備しておくほど、出口で取れる金額が安定します。

結論:副業法人オーナーの退職金設計の型

最後に、副業法人オーナーが取りやすい現実的な「型」を3つにまとめます。 自分のケースに近いものを起点に、税理士と詳細を詰めていくのが実務的です。

型①:1人法人ベーシック──小規模企業共済+法人退職金

副業法人で自分1人が役員、家族従業員もいないケース。 小規模企業共済を月3〜7万円で積み立てつつ、法人内部留保や経営セーフティ共済で原資を貯めておき、退職時に法人退職金を受け取るのが王道です。

毎年の所得控除(小規模企業共済)と、出口での法人税圧縮(法人退職金)が二段で効きます。 副業法人の8割はこの型でカバーできます。

型②:家族役員あり──共済+法人退職金 ×複数人

配偶者や親族を家族役員にしているケース。家族役員も小規模企業共済の加入対象になりえますし(要件次第)、退職時には自分・家族役員それぞれに対して法人退職金を支給できます。 設計の自由度は最大ですが、「家族役員にどこまで実態が伴うか」が前提条件として効いてきます。

家族役員の節税は家族を役員にする節税術で詳しく書いていますが、退職金との連動を最初から織り込んでおくと、出口でさらに効いてきます。

型③:従業員あり──中退共を組み合わせる

副業法人がスケールして、家族従業員(役員ではない)や外部のパートを雇うフェーズに入った場合、中退共を組み合わせます。 従業員にとっては国の助成つきの退職金、法人にとっては全額損金算入の福利厚生──両方の効果があります。

ただし役員には使えないので、自分の出口は型①・型②と同じく小規模企業共済+法人退職金で組むのが基本です。 中退共は「人を雇うフェーズで追加検討する」位置づけで構えると整理しやすいでしょう。

私自身は今のところ型①でやっています。 小規模企業共済を月7万円で積み立てて、法人内部留保+経営セーフティ共済で退職金原資を貯めている形です。 家族役員の追加や、将来的にパートを雇うフェーズになったら型②・型③を継ぎ足していく前提でロードマップを引いています。

最初に「30年後の出口」を設計しておくと、毎年の役員報酬の決め方や法人内部留保の使い方が自然と整って見えてきます。 これは個人事業主時代との大きな違いを感じる場面のひとつでした。


よくある質問(FAQ)

Q1. 副業サラリーマンでも小規模企業共済に加入できますか?

本業のサラリーマン(給与所得者)としては加入できません。ただし副業で法人成りして自分が役員になり、法人が小規模企業(業種ごとの従業員数基準を満たす)であれば、その役員という立場では加入できる余地があります。加入要件の最終確認は中小機構の窓口や顧問税理士にお願いするのが安全です。

Q2. 法人から自分への役員退職金はいくらまで損金にできますか?

法律上の上限額は決まっておらず、不相当に高額な部分のみが損金不算入になります(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。実務では「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」で算定する功績倍率法が用いられ、代表取締役で3.0が判例上の上限目安として参照されることが多いですが、これは法令上の閾値ではなく総合判断です。退職慰労金規程・株主総会決議・議事録の整備が前提条件になります。

Q3. 中退共には自分(役員)も加入できますか?

原則として役員は加入できません。中退共は従業員の退職金を国が支援する制度で、加入者は従業員に限定されています。例外として「使用人兼務役員」と認められない通常の取締役は加入対象外です。代表取締役などは法人税法施行令71条1項1号により法令上使用人兼務役員に該当しません。家族役員も同様に、役員として登記されている限り中退共は使えません。

Q4. 退職金で受け取ると所得税はどれくらい安くなりますか?

退職金は退職所得として、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いた残額に1/2を乗じた金額に対して累進課税が適用されます(役員等で勤続5年以下の場合は1/2課税の対象外)。給与で同額を受け取る場合と比べて税負担は大きく下がる構造で、これが退職金スキームの中核的な節税メリットです。具体的な軽減額は所得帯と他の控除で変動するので、税理士試算を推奨します。

Q5. 3つを併用できますか?それとも1つに絞るべきですか?

併用できる組み合わせがあります。たとえば自分は小規模企業共済+法人退職金、家族の従業員には中退共、という設計が代表例です。ただし退職所得控除の計算に勤続年数の重複調整(所得税法施行令70条1項2号)が入る場合があり、共済金一時金と法人退職金を同一年・近接年に受け取ると控除が圧縮されるため、最終形は税理士と試算してから決めるのが安全です。


📝 この記事のまとめ

🛡️
小規模企業共済は副業法人オーナーが自分のために積み立てる制度。掛金は全額所得控除、月7万円まで。20年未満解約は元本割れに注意
🏢
法人退職金は出口戦略の本丸。功績倍率法で「不相当に高額でない」範囲なら全額損金。退職慰労金規程+総会決議+議事録が必須
👷
中退共は従業員のための制度で、役員(自分)は対象外。家族従業員を雇うフェーズで検討する位置づけ
💴
退職所得控除+1/2課税の二段優遇により、同額を給与で受け取る場合と比べ税負担は大きく下がる構造(役員5年以下の特定役員は1/2課税対象外)
🎯
副業法人の8割は 「型①:小規模企業共済+法人退職金」 で十分。家族役員や従業員の有無で型②・型③に拡張する

※ 本記事の情報は2026年5月時点のものです。税制改正・通達・運用上の取扱いは変更される可能性があります。 ※ 物件・収入構成・法人形態・家族構成・本業給与の有無などにより結果は変わります。実際の処理は税理士確認が前提です。 ※ 試算は概算の単独計算で、他の所得や控除との組み合わせを反映していません。具体的な金額は税理士のシミュレーションを通してください。