なぜ「退職金」が副業法人の出口戦略の本丸になるのか?
法人成りの節税というと、役員報酬・社宅・家族役員などの「毎年の節税」に注目が集まります。 しかし副業法人の本当の妙味は、「最後にまとまった金額を退職金で受け取る」という出口にあります。
退職金には、ほかの所得には存在しない「退職所得控除」という大きな控除枠と、控除後の金額をさらに半分にしてから累進課税にかける1/2課税というインパクトの大きい優遇があります。 同じ1,000万円を給与として受け取るのか、退職金として受け取るのかで、手取りは数百万円単位で変わってきます。
ところが、退職金スキームは1つではありません。 副業法人オーナーが使える主要な制度は3つあり、それぞれ「誰が」「いつ」「どれくらい」払うかという設計が異なります。 それを混同したまま走り出すと、せっかくの優遇枠を取りこぼします。
この記事では、副業法人を作ったサラリーマン・YouTuber・フリーランスが知っておくべき退職金3スキーム──小規模企業共済・法人退職金(役員退職慰労金)・中退共(中小企業退職金共済)──を、実体験を交えながら比較します。 最後まで読めば、自分の法人でどれを使い、どう組み合わせるべきかの輪郭が掴めるはずです。
退職金スキーム3つの全体像(小規模企業共済・法人退職金・中退共)
まずは3つの制度の立ち位置を一気にざっくり把握しましょう。 細かい違いはこの後のセクションで分解しますが、最初に「誰のための制度なのか」を整理しておくと、以降の説明が頭に入りやすくなります。
① 小規模企業共済
月1,000〜70,000円個人事業主や小規模法人の役員のための「自分用退職金」。掛金は全額所得控除になり、共済金は退職所得などとして受け取り。中小機構が運営。
② 法人退職金(役員退職慰労金)
退職時に一括退職時に法人から役員へ支給する退職金。社内ルールに基づき、不相当に高額でない範囲で法人の損金にできる。設計の自由度が一番大きい。
③ 中退共
月5,000〜30,000円中小企業の従業員のための退職金共済。掛金は全額損金算入&国の助成あり。ただし役員は加入できないため、副業オーナー本人ではなく従業員向け。
3スキームの基本データ早見表
細かな数値は次セクションから個別に見ていきます。まずはこの表で「自分はどの行を読めばいいか」だけ掴んでください。
| 比較項目 | 小規模企業共済 | 法人退職金 | 中退共 |
|---|---|---|---|
| 主な対象 | 個人事業主/小規模法人の役員 | 法人の役員 | 中小企業の従業員 |
| 副業法人オーナー本人 | ○(要件次第で加入可) | ◎(メイン制度) | ×(役員は不可) |
| 家族役員 | △(業種・規模条件あり) | ○ | ×(役員は不可) |
| 家族従業員(役員でない) | × | - | ○(要件あり) |
| 掛金の上限 | 月7万円(年84万円) | 退職時にまとめて支給 | 月3万円(年36万円) |
| 掛金の税務上の扱い | 全額所得控除(個人) | 退職時に法人で損金算入 | 全額損金算入(法人) |
| 受取時の課税 | 退職所得 or 雑所得 | 退職所得 | 退職所得 |
| 運用 | 中小機構が運用 | 法人が積立/生命保険など | 勤労者退職金共済機構 |
ここから先は、各制度の中身に踏み込みます。 数値や条件が細かく出てくるので、自分の状況に関係しそうなセクションから拾い読みしてもOKです。
小規模企業共済の仕組みと副業法人での使い方
小規模企業共済は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、個人事業主や小規模企業の経営者・役員のための「自分専用の退職金積立制度」です。 創業1965年の歴史ある制度で、副業法人オーナーが最初に検討すべき出口商品の一つです。
どんな制度?──「自分で積み立てる退職金」
仕組み自体はシンプルです。月1,000円から70,000円までの範囲で掛金を払い込み、廃業や役員退任のタイミングで「共済金」としてまとめて受け取ります。 掛金は500円単位で増減でき、業績に応じて柔軟に変えられます。
節税ポイント①:掛金は全額「所得控除」
払い込んだ掛金は、その年の所得から「小規模企業共済等掛金控除」として全額差し引けます(所得税法第75条)。 たとえば年間84万円(月7万円×12ヶ月)を満額で積み立てた場合、所得税・住民税の両方で控除が効きます。
副業法人オーナーが個人として加入し、自分の役員報酬から払い込む場合、所得税の限界税率が20%(住民税10%と合わせて30%)の方なら、年間84万円の掛金に対して結果的に年20万〜25万円程度の税が軽くなる傾向になります。 ※ 実際の軽減額は本業給与・副業役員報酬の合計と他の控除によって変わります。限界税率が低い帯では効果も小さくなります。
節税ポイント②:受け取り時も「退職所得」扱いで優遇
共済金の受け取り方は、以下のような選択肢があります(受給事由により扱いが変わります)。
- 一時金で受け取る:退職所得として課税。退職所得控除+1/2課税の優遇あり。
- 分割で受け取る:公的年金等の雑所得として課税。公的年金等控除が使える。
- 一時金と分割の併用:両方の優遇枠を使い分ける設計が可能。
多くの副業法人オーナーが選ぶのは「一時金で退職所得にする」ルートです。 退職所得控除(後述)と1/2課税のセットで、受取金額のかなりの部分を非課税ゾーンに押し込めます。
副業サラリーマンは加入できる?できない?
ここがよく勘違いされるポイントです。 小規模企業共済は「給与所得者」としての加入は認められていません。 つまり、本業のサラリーマンの立場では加入できません。
ただし副業で法人成りをして、自分がその法人の役員になっている場合、「小規模企業の役員」という立場で加入できる余地が生まれます。 ポイントは法人の規模が「小規模企業者」に該当するかどうかです(業種ごとの常時使用従業員数で判定)。
⚠️ 短期解約は元本割れする
小規模企業共済は、加入から240ヶ月(20年)未満で任意解約すると、解約手当金が払込総額を下回る設計になっています。 また加入から12ヶ月未満で解約すると、解約手当金は0円です。
私が法人成りしたとき、最初の決算書を税理士に作ってもらった面談で「小規模企業共済はもう申し込みましたか?」と最初に聞かれました。 副業の調子に波があったので月3万円から始め、利益が安定してきた2年目に月5万円、3年目から満額の月7万円に上げる、という積み増し方をしました。
満額にしてから振り返ると、年間84万円を積み立てて、所得控除でその年の税負担が体感で20万円ちょっと軽くなり、しかも将来の自分の退職金になっている──この二重の効果は、個人事業主時代との違いを実感する場面のひとつでした。
法人退職金(役員退職慰労金)の仕組みと損金算入のルール
法人退職金──正式には「役員退職慰労金」と呼ばれることが多い──は、役員が退任するときに法人から支給する退職金です。 副業法人の出口戦略のなかで、設計の自由度がもっとも大きく、節税インパクトも一番大きいのがこの制度です。
法人退職金は「規程+総会決議+議事録」がセット
役員退職金を有効に支給するには、いきなり「振り込みました」では通りません。 会社法・法人税法の両面から、以下の手続きが事実上必須になります。
① 退職慰労金規程を作る
役員に退職金を支給する場合の算定式・支給対象・支給時期を定めた社内ルール。後付けで作るのではなく、退職前に整備しておくのが安全です。
② 株主総会で決議する
取締役の報酬・退職慰労金は株主総会の決議事項(会社法361条)。具体額の決定を取締役会または代表取締役に一任する形でも、最低でも上限・算定基準は総会で示し、社内規程として株主が閲覧できる状態にしておくのが原則です(最判昭和39.12.11、退職慰労金の一任決議に関する判例)。
③ 議事録を残す
株主総会議事録・取締役会議事録(必要に応じて)を作成し、保管。税務調査では真っ先に確認される書類のひとつです。
④ 退職の事実があること
名目だけの退職(実質は経営に関与し続ける)では退職金として認められないリスクがあります。代表取締役→平取締役のような分掌変更も、実態が伴えば退職とみなされる場合がありますが、ここは個別判断です。
いくらまで損金にできる?──「不相当に高額」の判定
法人税法34条2項は、役員退職給与のうち「不相当に高額な部分」は損金不算入と定めています。 逆に言えば、不相当に高額でない範囲なら全額が損金になります。
では「不相当に高額」をどう判定するか。 法令上の固定値はありません。実務でも判例でも参照されるのは、いわゆる功績倍率法という算定式です。
功績倍率は法令で定められたものではなく、過去の判例・国税不服審判所の裁決などで「これくらいまでなら不相当に高額とは言いにくい」と参照されてきた数値です。 代表取締役で 3.0 が判例上の上限目安として参照されることが多く、これを超える設計は否認リスクが高まると言われます。専務2.4、常務2.2、平取締役1.8前後が判例の目安として挙げられることが多いですが、いずれも法令上の閾値ではなく総合判断の参考値です。
数値例で見る「いくらまで損金にできるか」
たとえば、副業法人で次のような条件を想定します。
- 最終月額報酬:50万円
- 役員在任年数:20年
- 功績倍率:2.5(代表取締役)
この金額が、税務上「不相当に高額」と言われにくい目安水準です。 法人側はこの2,500万円を退職した期に一括で損金算入できるため、その期に十分な利益があれば、所得圧縮分に対して法人実効税率(副業法人の所得帯ならおおむね22〜34%)相当の法人税が軽くなります。 仮に当該期の所得が退職金額を下回ると欠損金として翌期以降10年繰り越す扱い(法人税法57条)になるため、即時のキャッシュ効果は限定的になる点に注意してください。
原資の準備方法:内部留保/生命保険/共済
法人退職金は支給する瞬間に2,000万円・3,000万円が降ってくるわけではありません。 在任中に何らかの方法で原資を準備しておく必要があります。代表的な方法は次の通りです。
① 法人内部留保(現預金で貯める)
もっともシンプル。利益から法人税を払ったうえで残った現金を法人口座に積み上げる方法。掛金の所得控除のような毎年の節税はないが、自由度は最大。
② 法人生命保険(一部商品)
解約返戻金を退職金原資に充てる手法。ただし2019年の通達改正で全額損金タイプは大幅に制限されており、現在は損金算入割合が抑えられた商品が中心。設計には専門家の助けが要る領域。
③ 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
本来は取引先倒産対策の制度ですが、解約手当金が退職金原資に近い性質を持つため、出口設計として併用されるケースがあります。詳細はセーフティ共済の節税記事を参照。
中退共は副業法人で使えるのか?
中退共(中小企業退職金共済)は、勤労者退職金共済機構が運営する国の制度で、中小企業が従業員のために退職金を準備する仕組みです。 副業法人オーナーが意外と知らないのが、「中退共は役員のためには使えない」という点です。
中退共のキホン:従業員のための制度
事業主が金融機関等に掛金を毎月払い込み、退職時に従業員へ直接退職金が支払われる仕組みです。 事業主から見ると、掛金が全額損金算入できる、退職金事務を機構が代行してくれる、国からの掛金助成があるなどのメリットがあります。
- 掛金月額:5,000円〜30,000円(パートタイマー等は2,000円〜の特別枠あり)
- 新規加入時の助成:掛金の1/2(上限あり)を一定期間助成
- 掛金月額を増額した場合の助成あり(条件あり)
役員は対象外──ここを必ず押さえる
中退共の加入対象は従業員に限られ、役員(取締役・監査役・代表社員など)は加入できません。 副業法人で自分が代表になっている場合、自分のために中退共は使えない、ということになります。
副業法人で中退共を活かすなら「家族従業員」
役員ではない家族(たとえば配偶者を従業員として雇用する場合)であれば、中退共の加入対象になりえます。 ただし事業主と生計を一にする親族(同居親族)は、原則として被共済者になれません(中小企業退職金共済法2条3項、機構運用基準)。配偶者でも生計を一にしているなら対象外、という運用なので、加入可否は機構窓口で個別確認が必要です。
ざっくり言えば、中退共は「副業1人法人の本人用」ではなく「拡大して従業員を雇うフェーズで検討する制度」と位置づけるのが実態に合っています。 副業法人成り直後の段階では、まず①小規模企業共済と②法人退職金の組み合わせを優先して設計するのが現実的です。
受け取り時の税金:退職所得控除と1/2課税の効果
ここまで「掛けるとき」の話をしてきましたが、退職金スキームの本当の威力は「受け取るとき」に現れます。 退職所得には、ほかの所得には存在しない強烈な優遇が二段重ねで効いてきます。
退職所得控除──勤続年数で増える非課税枠
退職金(退職所得)には、勤続年数に応じた非課税枠(退職所得控除)があります。 所得税法30条3項の規定に従って計算します。
※ 勤続年数は1年未満の端数を切り上げます。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 | 控除のイメージ |
|---|---|---|
| 5年 | 200万円 | 200万円までは非課税 |
| 10年 | 400万円 | 400万円までは非課税 |
| 15年 | 600万円 | 600万円までは非課税 |
| 20年 | 800万円 | 800万円までは非課税 |
| 25年 | 1,150万円 | 1,150万円までは非課税 |
| 30年 | 1,500万円 | 1,500万円までは非課税 |
| 35年 | 1,850万円 | 1,850万円までは非課税 |
控除後の金額をさらに半分にしてから課税──1/2課税
退職所得控除を引いた後の金額は、さらに1/2を乗じてから所得税の累進税率を適用します(所得税法30条2項)。 つまり、退職金1,000万円・退職所得控除800万円のケースなら、課税対象になるのは(1,000万円−800万円)×1/2=100万円だけです。
⚠️ 「特定役員退職手当等」の落とし穴
役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)は、1/2課税の対象外になります(所得税法30条4項)。 短期で引退・退任して退職金を受け取る設計は、この点で税負担が大きくなります。
給与で取るのと退職金で取るので、いくら変わるのか?
たとえば「2,000万円を一括で取る」場合の比較を、ざっくり試算してみます(実際は本業給与・副業役員報酬・他の所得控除で変動します。試算は単独・概算)。
📊 比較:2,000万円を給与 vs 退職金で受け取る(勤続20年)
※ 課税所得2,000万円相当・他の所得控除なし・社会保険料は別計算とした概算。給与受取の場合は別途、社会保険料(年間百万円単位)が法人・個人双方で発生します。実際の数値は本業給与・他の控除との合算で変動します。
給与は超過累進税率がフルにかかるうえに社会保険料の対象にもなるのに対し、退職金は退職所得控除+1/2課税で課税対象が縮小し、社会保険料の対象にもなりません。 この差が、退職金スキームのインパクトが最も大きいと言われる所以です。
3スキーム併用シミュレーション:30年で動く金額
ここまでの内容を、「副業で法人成りして30年運営した1人法人オーナー」を想定して、3スキームを併用したらどう動くかを試算してみます。 数字はざっくりした目安で、実効税率や運用利回りで結果は変わります。
前提条件
- 副業法人成り:35歳
- 役員退任:65歳(在任30年)
- 役員報酬(最終月額):60万円
- 小規模企業共済:月7万円×30年
- 法人退職金:最終月額×30年×功績倍率2.5=5,400万円(試算上の目安)
- 家族従業員:今回の試算では計上せず(中退共は割愛)
📊 ① 小規模企業共済の30年積立効果
共済金を一時金で受け取る場合、掛金納付期間(30年)に応じた退職所得控除1,500万円が使えます。 ただし下記②の法人退職金と同一年または近接年に受け取る場合は、所得税法施行令70条1項2号・所得税基本通達30-10にもとづき退職所得控除の重複調整(勤続期間の重複部分は控除を按分)が入るため、控除額は単独計算より圧縮されます。両者を異なる年に分けて受給する設計が王道です。
📊 ② 法人退職金の節税効果(在任30年・功績倍率2.5)
※ 試算上の数値は単独計算で、共済金との同時受取に伴う退職所得控除の重複調整、他の所得との合算、各種控除は反映していません。 また当該期の法人所得が退職金額を下回ると欠損金繰越(法人税法57条)に転化するため、即時のキャッシュ効果は限定的になります。自分のケースに当てはめる場合は、必ず税理士のシミュレーションを通してください。
退職金スキームは、税理士と「最初に」設計するのが一番効く
小規模企業共済の加入時期、役員報酬と功績倍率の整合、家族従業員の中退共── どれも「設立後すぐ」に決めておくほど、30年で動く金額が変わってきます。 副業法人専門の税理士に一度相談してみるのが、出口戦略の最短ルートです。
▶ 副業法人の出口戦略を無料相談するよくある落とし穴と税務調査で指摘されやすい点
退職金スキームは節税効果が大きい分、税務調査でも重点的にチェックされる領域です。 副業法人オーナーが踏みやすい落とし穴を、実務で指摘されやすい順に並べます。
落とし穴①:退職慰労金規程・議事録の不備
実務で一番多い指摘がこれです。 退職慰労金規程が後付けで作られている、株主総会議事録が支給日より後の日付になっている、議事録に算定基準や金額の記載がない── こうした書類不備は、退職金そのものを否認する根拠になりえます。
落とし穴②:「不相当に高額」の判定で否認
功績倍率法で算定したつもりでも、最終月額報酬がたまたま支給直前に大きく引き上げられていたり、業績に見合わない高倍率を使っていたりすると、「不相当に高額な部分」として一部が損金不算入になります(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。
たとえば最終月額報酬を退職前年度に2倍に引き上げて、その金額×在任年数×功績倍率3.0で計算するような設計は、税務調査で否認リスクが高まります。 最終月額は退職前数年間の平均的な水準を参考にするのが安全です。
落とし穴③:「退職の事実」がない(実質的な退職と認められない)
代表取締役を辞任して平取締役に分掌変更したが、実態としては経営判断を続けていた──このような「形だけの退職」は、税務上の退職と認められず、支給した退職金が役員給与(しかも臨時のもの)として扱われ、損金不算入になる可能性があります。
分掌変更でも認められやすい条件
① 報酬が概ね半分以下に減少 ② 主要な業務執行から実質的に外れる ③ 後継者が実権を持つ──など、実態として「退いた」と言える状況であること。書面だけでなく実態が問われます。
落とし穴④:源泉徴収・退職所得申告書の漏れ
退職金を支給するときは、退職金の額・勤続年数等を踏まえた源泉徴収が必要です。 また受取側は「退職所得の受給に関する申告書」を支給日前日までに提出することで、退職所得控除が源泉徴収段階で適用されます。 これを忘れると、いったん高い源泉税率で源泉徴収されるか、確定申告で精算する手間が発生します。
落とし穴⑤:小規模企業共済の240ヶ月縛り
前述のとおり、240ヶ月(20年)未満の任意解約では元本割れします。 副業の業績悪化で長期積立が難しいときは、解約より掛金減額(最低月1,000円)や一時的な払込停止で凌ぐのが鉄則です。
結論:副業法人オーナーの退職金設計の型
最後に、副業法人オーナーが取りやすい現実的な「型」を3つにまとめます。 自分のケースに近いものを起点に、税理士と詳細を詰めていくのが実務的です。
型①:1人法人ベーシック──小規模企業共済+法人退職金
副業法人で自分1人が役員、家族従業員もいないケース。 小規模企業共済を月3〜7万円で積み立てつつ、法人内部留保や経営セーフティ共済で原資を貯めておき、退職時に法人退職金を受け取るのが王道です。
毎年の所得控除(小規模企業共済)と、出口での法人税圧縮(法人退職金)が二段で効きます。 副業法人の8割はこの型でカバーできます。
型②:家族役員あり──共済+法人退職金 ×複数人
配偶者や親族を家族役員にしているケース。家族役員も小規模企業共済の加入対象になりえますし(要件次第)、退職時には自分・家族役員それぞれに対して法人退職金を支給できます。 設計の自由度は最大ですが、「家族役員にどこまで実態が伴うか」が前提条件として効いてきます。
家族役員の節税は家族を役員にする節税術で詳しく書いていますが、退職金との連動を最初から織り込んでおくと、出口でさらに効いてきます。
型③:従業員あり──中退共を組み合わせる
副業法人がスケールして、家族従業員(役員ではない)や外部のパートを雇うフェーズに入った場合、中退共を組み合わせます。 従業員にとっては国の助成つきの退職金、法人にとっては全額損金算入の福利厚生──両方の効果があります。
ただし役員には使えないので、自分の出口は型①・型②と同じく小規模企業共済+法人退職金で組むのが基本です。 中退共は「人を雇うフェーズで追加検討する」位置づけで構えると整理しやすいでしょう。
私自身は今のところ型①でやっています。 小規模企業共済を月7万円で積み立てて、法人内部留保+経営セーフティ共済で退職金原資を貯めている形です。 家族役員の追加や、将来的にパートを雇うフェーズになったら型②・型③を継ぎ足していく前提でロードマップを引いています。
最初に「30年後の出口」を設計しておくと、毎年の役員報酬の決め方や法人内部留保の使い方が自然と整って見えてきます。 これは個人事業主時代との大きな違いを感じる場面のひとつでした。
よくある質問(FAQ)
Q1. 副業サラリーマンでも小規模企業共済に加入できますか?
本業のサラリーマン(給与所得者)としては加入できません。ただし副業で法人成りして自分が役員になり、法人が小規模企業(業種ごとの従業員数基準を満たす)であれば、その役員という立場では加入できる余地があります。加入要件の最終確認は中小機構の窓口や顧問税理士にお願いするのが安全です。
Q2. 法人から自分への役員退職金はいくらまで損金にできますか?
法律上の上限額は決まっておらず、不相当に高額な部分のみが損金不算入になります(法人税法34条2項、法人税法施行令70条2号)。実務では「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」で算定する功績倍率法が用いられ、代表取締役で3.0が判例上の上限目安として参照されることが多いですが、これは法令上の閾値ではなく総合判断です。退職慰労金規程・株主総会決議・議事録の整備が前提条件になります。
Q3. 中退共には自分(役員)も加入できますか?
原則として役員は加入できません。中退共は従業員の退職金を国が支援する制度で、加入者は従業員に限定されています。例外として「使用人兼務役員」と認められない通常の取締役は加入対象外です。代表取締役などは法人税法施行令71条1項1号により法令上使用人兼務役員に該当しません。家族役員も同様に、役員として登記されている限り中退共は使えません。
Q4. 退職金で受け取ると所得税はどれくらい安くなりますか?
退職金は退職所得として、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いた残額に1/2を乗じた金額に対して累進課税が適用されます(役員等で勤続5年以下の場合は1/2課税の対象外)。給与で同額を受け取る場合と比べて税負担は大きく下がる構造で、これが退職金スキームの中核的な節税メリットです。具体的な軽減額は所得帯と他の控除で変動するので、税理士試算を推奨します。
Q5. 3つを併用できますか?それとも1つに絞るべきですか?
併用できる組み合わせがあります。たとえば自分は小規模企業共済+法人退職金、家族の従業員には中退共、という設計が代表例です。ただし退職所得控除の計算に勤続年数の重複調整(所得税法施行令70条1項2号)が入る場合があり、共済金一時金と法人退職金を同一年・近接年に受け取ると控除が圧縮されるため、最終形は税理士と試算してから決めるのが安全です。
📝 この記事のまとめ
※ 本記事の情報は2026年5月時点のものです。税制改正・通達・運用上の取扱いは変更される可能性があります。 ※ 物件・収入構成・法人形態・家族構成・本業給与の有無などにより結果は変わります。実際の処理は税理士確認が前提です。 ※ 試算は概算の単独計算で、他の所得や控除との組み合わせを反映していません。具体的な金額は税理士のシミュレーションを通してください。